かがみや



小坊(こぼん)さん

 むかしむかし、ある寺に、へまばっかしている小坊(こぼん)さんが、いたんやと。

 ある日のこと、和尚さんが

「小坊さんや。今日は、二階からしょう油おろすで、手ったいしてくれや。」

というたんやと。ほいて二階へ上がって、上から、

「いいかい。お前。」

と声をかけたんやと。

「ああ、いいよ。」

「ほんとにいいか。しっかりはしごの腰をもってるか。」

「ああ、もってるよ。」

ほんで和尚さんは、安心して、大きなしょう油の樽をかかえて、はしごに足をかけたんやと。そのとたん、はしごがはずれてもて、

「ドカーン。」

和尚さんもろとも落ちて、樽がわれ、そこら中ひでぇもんになってもたんやとの。和尚さんはびっくりして、小坊さんを見たら、小坊さんはしっかりと自分の腰をおさえて、キョトンと立っていたんやとの。

 また、ある日のこと、町はずれの酒屋へ酒買いに行かせたんやと。和尚さんは、

「お前はまぬけやで、よう聞いておけや。一升(いっしょう)やぞ。わかったか。一升やぞ。」

とうるさくいうたんやと。小坊さんは、

「わかった。一升やな。一升やな。」

というて出かけたんやと。また、へましたらあかんと、

「一升やな。一升やな。」

といいながら、歩いたんやと。

 町はずれまで来たら、からすに出あったんやと。ほいたら、からすが、

「一升かあー。一升かあー。」

というんやと。小坊さんは心配になってもて、

「一升やったけな。ニ升(にしょう)やったけな。」

とからすに聞いたんやと。ほいたらからすが、

「ニ升かあー。ニ升かあー。」

だんだん心配になって、小坊さんは、

「一升けな。ニ升けな。どっちけな。」

ほいたら、からすが、

「一升かあー。ニ升かあー。どっちかあー。」

というんやと。酒屋の前まできたけど、もう、わからんようになって、

「まあ、どうでもいいわ。」

と、一升買って出てきたんやと。ほいたら待ってたからすが、

「一升かあー。結局一升かあー。ほんでいいんかあー。」

と、またからかうんやと。小坊さんは腹がたって、からすを追っかけたんやと。そのうち、すっかり酒のとっくりのことも忘れてもて、からすと真剣に、けんかしたんやと。ほいたらからすが、

「あほー。あほー。あほかあー。あほかあー。」

というもんやで、おこって寺に帰ってきたんやと。ほいて、いまかいまかと待ってた和尚さんの顔を見たとたん、はっと思い出してとっくりを見たんやと。ところが、とっくりはとうに割れて、酒はからっぽ。とっくりの口(くち)だけ、手にぶらさがっていたんやとの。

話者:山口 悦子  再話者:坂下 淳子  採話地:二宮三丁目


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